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                             By 小沢


 作者の自薦短編集だけあって,一筋縄ではいかないバラエティに富んだ作品集である.収録作品は二十編。
 二十編の中には、ファンタジィのみならず、ホラーもあり、SFあり、ハードボイルド風のものあり、寓話ふうなものあり、ラブストーリーあり、哲学小説ふうのものもある。三ページたらずのスケッチ風のものもある。
 題材も狼男、吸血鬼、メドゥーサ、ドワーフ、ユニコーンなどのお馴染みのものが総出演し、作者独特の耽美的なひねりも付け加えられている。

 中でも印象的な作は、赤ずきんの話を軸とした美しい狼男の話「Bloodmantle」、ギリシャ神話の運命の女神を思わせる三味一体の死の貴婦人が象徴的に登場する「Elle Est Trois」、ユニコーンを追い求めて三回の人生をたどる人物の神学的な寓話「The Hunting of Death」、機械による管理社会を描いたものだが輪廻転生の物語にも読めて、登場する機械が妙に人間的でなまめかしい「A Madonna of The Machine」、言葉を持たず歌や動作で意志を伝える吸血鬼の設定がおもしろい「Bite Me Not」、タロットカードかタぺストリーを見ているように絵画的な展開の「White as Sin, Now」などである。
 たいへんすぐれた短編集ではあるが、残念ながら翻訳の機会もないと思われるので,以下に全二十編の内容を簡単に紹介してみる。

「Bloodmantle」
 子供の頃、いとこたちといっしょに、「私」は祖母から狼男の話を聞いた。少女が森を歩いていると、狼男が現れて少女を襲うが、少女の着ていた真っ赤なマントが反対に狼男を食い殺してしまうという昔話である(赤ずきんの童話の変形らしい)。
 それからしばらくして、いっしょにその話を聞いていた小きな従弟が急死したと、「私」は知らされる。
 数年して、「私」は久しぶりに祖母のいた町にもどってくる。町はすっかり変わってしまっている。町では方々で娘たちが襲われて殺されるという騒ぎが持ちあがっている。襲っているのは人間ではなく、狼男ではないかともささやかれている。
 「私」は夜の町を歩いていて、その犯人の狼男らしい人物と出会う。それは死んだと聞かされていた彼女の従弟にまちがいなかった。彼女と成長した従弟は、祖母から聞いた昔話を語りあう。
 夜明け前に従弟はどこかへ立ち去り、「私」は祖母の墓参りをしてから、町をあとにする。


「The Gorgon」
『ゴルゴン――幻獣夜話』(ハヤカワ文庫FT)に収録。
 ギリシャ旅行をしている「私」は、ダフネの島に滞在している。その島のそばに名もない小さな島があるのを見て、彼女はそこへ波ってみたいと頼むが、島人たちはみんな拒否する。その小さな島にはゴルゴンが住んでいて、見た者を石に変えるという話があり、誰も近づかないのだという。
 83年世界幻想文学大笑短篇部門、受賞作。


「The Tree : A Winter's Tales」
 大きな古い樹が庭にある家で、五人のいとこたちが住んでいる。彼らは互いに屈折した愛憎をいだき、鬱々と暮らしている。彼らの親の代からずっと変わらずに、樹は家の人々を見守っている。
 いとこのひとりが樹を切ろうと言いだすと、別のひとりが止める。彼の両親は樹を切ろうと決めてからすぐに事故で死に、彼はそれが樹の呪いだと信じている。結局は樹を恐れつつも、彼らはそれを切る勇気もなく、家から出ていくことも出来ずにまた欝屈した日々をすごしていく。


「I was Guillotined Here」
 フランス革命のときに友人だったふたリが、現代のマンハッタンで生まれ変わって巡りあうという3ページのショートストーリー。

「Crying In The Rain」
『アザ−・エデン』(ハヤカワ文庫)に抄録。邦題は「雨にうたれて」。
 核戦争後の汚染された世界で、たくましく生きる母と娘の話。


「Elle Est Trois(La Mort)
 パリの橋の上で詩人は、「彼女」が水中から青白い手をふっているのに出会う。その仲間の画家は子供の頃、月の夜に「彼女」に会ったことがある。「彼女」はピエロのような姿で曲芸を見せていた。
 もうひとりの仲間である作曲家は部屋でピアノを弾いているときに『彼女』と出会い、殺されてばらばらにされる。
 詩人と画素は友人を殺したという女を調べていくうちに、それが彼らも出会っている「彼女」だとわかる。
 「彼女」は三つの面と姿を持つ謎の存在(死の貴婦人のようなものらしい)で、「彼女」はどこにでも存在している。
 84年世界幻想文学大賞短篇部門、受賞作。


「Nicholas」
 いつも決まった時刻に現れ、ほとんど口もきかないまま帰っていく謎の美青年を恋人に持つ女を描いたショートストーリー。

「The Hunting of Death」
 レイゼブンの第一の人生は、若い男だった。リュート弾きだったが、この世を超えたものに絶望的なあこがれをだいていた。あるとき、ユニコーンに出会って魅せられた彼は、領主にそれを語る。領主はユニコーン狩りを行ない、処女にさそわれて現れたユニコーンを刃で倒す。リュート弾きは領主の庭でユニコーンの死体を捜しあてると、ユニコーンはよみがえって、彼の胸をえぐった。
 第二の人生は少女になった。十六歳の誕生日に司祭が訪れ、ユニコーンを呼ぶ儀式について告げる。彼女は司祭によって塔に案内され、ユニコーン狩りはキリストの一生を象徴しているのだと説明される。その夜、悪魔が彼女のもとに現れ、誘惑や脅迫をするが彼女はそれをはねのける。儀式の日、彼女に呼びよせられてユニコーンは現れるが、そのまま彼女を殺さずに去っていく。こうして五十年ぶりに儀式は成功し,町は清められた.
 第三の人生ではユニコーンとして生まれた。さまよいながら多くの人と出会い、奇跡を行ないつづけた。そうするうちにユニコーンは人間性からも自由になり、光の流れに変わっていった。

「A Madonna of The Machine
 機械によって管理された未来社会。単純作業をくりかえすWorkersのひとりは、彼を見ている女に気づいて今までのような作業ができなくなる。機械は彼を治癒するが、彼はダイアルにふれるだけの作業をさぼるようになる。しかし彼が何もしなくても、変わらずダイアルは回っていた。
 またWorkersたちを見つめているWatchersという人々がいて、彼らはパートナーや友人を持ち、働くことなく遊びくらしている。
 いつものようにWorkersを見ていたWatchersの女は様子のおかしいひとりに気づく。その男は橋を渡ってWatchersのいるところへやって来る。何しにきたと彼女が尋ねても、彼は泣くばかりである。
 もうひとつ、Co-ordinatorsという人々がいて、彼らはWatchersたちの生活を管理しながら、機械の紡ぐ女の夢を見ている。
 この社会では人は誰も死ぬことはなく、WorkersはWatchersになり、やがてCo-ordinatorsとなって、ついには機械と一体化する。


「Red as Blood」
 『血のごとく赤き――幻想童話集』に収録。
 白雪姫を題材にした吸血鬼の話。


「The Rakshasa」
 インド神話から題材をとった『タマスターラー』(ハヤカワ文庫FT)の番外編らしい。
 インドに滞在している英国人の「私」は現地のクリシュナのような美青年にひかれている。彼は森に精霊がいると「私」に語る。精霊を見せてあげようという美青年の誘いを、恐れながらもときめいて「私」は受け入れる。


「Bite Me Not or Fleur de Fur」
 吸血鬼の一群が大公の城へ飛んできた。この吸血鬼たちは首領に率いられ、空を飛び、言葉を話さず身振りで意図を伝える一族である。
 大公は城に飼われていたライオンを放し、吸血鬼の首領を捕えるが、大公の娘がその首領に恋し、檻の中から逃がしてしまう。娘は吸血鬼にしがみついて、ともに飛んでいってしまう。
 故郷の山にもどった首領は、彼の一族が彼を死んだものとして新しい首領を選んでしまっているのを知る。
 絶望した首領は死ぬしかないと巽をたたんで落ちようとしたところを、ついてきた大公の娘にとめられる。ふたリは山奥に逃れ、仲よく暮らすが、冬になって食物もなくなり、洞窟で死んでしまう。
 大公は長い間、吸血鬼よけの≪私を咬まないで≫という花を求めていた。その花は山から来た旅人によってもたらされる。花は山の中の洞窟のふたつの白骨のあいだで咲いていたという。


「By Crystal Light Beneath One Star」
 地球を遠く確れて、陽のささない暗黒の世界で暮らす男が過去のさまぎまな出来事を回想とも幻想ともつかないままに日々思い出している。
 地球の夏の日につきあっていた女との出会いから別れが、どこまで本当の記憶なのか分からないままに男の淋しい暮らしとともに綴られていく。外の世界と同様に彼の中も、暗黒の世界そのものだと思いながら。


「La Reine Blanche」
『ゴルゴン――幻獣夜話』(ハヤカワ文庫FT)に収録。邦題は「白の王妃」

「Sweet Grapes」
 瓦礫の山に埋まる廃墟に、「私」はある画家の家を訪ねていく。その高名な画家は死んでまもなく、まだ絵のいくつかがそこにゑされていると「私」は開いている。彼の友人の画家もその絵を捜していたが、絵は見つからず謎の死を遂げてしまった。
 瓦礫の中を「私」が歩いていくと、煉瓦やがらくたが上から降ってきて、彼は逃げまどい、こんなところへ来たことを悔やむ。


「The Tenebris Malgraoh」
 21世紀、地球は彗星が落ちてからすっかり様相を変えていた。「私」は友人のキマリンが悩んでいるというので、テネプリスという地に向かう。キマリンは俳優である夫のアローとともに、豪華船で彼を出迎えた。船には夫妻の他に、キマリンの取り巻きたちも乗っている。
 パーティで謎の化石を見せられたキマリンは気絶する。アローは彼女と別れたいので、彼女の嫌がる化石を無理に見せたのだと「私」に打ち明ける。アローが飲んだくれていたときにキリマンが現れ、彼らは罵りあいをはじめ、アローは彼女に謎の化石を投げつける。キリマンのそのショックで死んでしまう。
 彼女の取り巻き連中は夫のアローと「私」を責め、私刑にかけようとする。彼らはキリマンの死体とともにユニットにたてこもる。そのあいだに彼女の死体は溶けて動きだし、さまざまな形をとってから彼女の顔になる。彼女は彼らに微笑みかけ、海へ去っていった。化石をいろいろ調べたが、何も分からなかった。
 「私」はキリマンの正体が海から来た異星生物ではないかと予想をたてている。


「Black as a Rose」
 平たい地球シリーズの『妖魔の戯れ』(ハヤカワ文庫FT)の中の一編。
 四作め『熱夢の女王』にも出てきたダダンジャという僧侶の弟子が、女の姿に化けた闇の公子アズュラーンによって堕落させられ、ついには死んでしまうという話。


「Rachel」
 「私」の一人めの妻は,あなたは妹のレイチェルを愛しているといって彼を責めた。彼は学者である父に相談し、しばらく家を離れていることにした。
 旅の途中、星がまとまって消えるのを目撃し、それは神が空を横切ったのだと聞かされる。彼は神秘にうたれ、祈りを捧げて家に戻る。しかししばらくして、妻は死産で死んでしまう。
 父の勧めで彼は二番めの妻を迎える。妹はもう死んでいたが、ふたつめの妻もまたその影に怯える。ふたリの息子も生まれたが、長男のベッドの近くでサソリが見つかり、妻はそれを妹のレイチェルの呪いだという。
 「私」は夢の中でレイチェルと会い、妻の顔は妹のものとなっていた。彼は墓地で妹の墓を捜すが、どうしても見つけられなかった。二番めの妻はやがて狂い死にする。
 時がたち、息子にも子供が生まれた。その内の十五歳の孫娘はレイチェルにそっくりとなった。


「Down Below」
 子供の頃に恐ろしい黄褐色の男を見て、今まで見ていた世界を一転されるように感じ、神は助けを呼んでも来てくれないものだと思うようになったというスケッチ風のショートストーリー。

「White as Sin, Now」
 一組のカードから着想を得た、二十一の章で組み立てられた物語。
 ドワーフのへラクティはフリークを集めている王子のもとへ行く。城には他にもドワーフたちや、グリフォンなどがいる。彼は王子の継母である赤の女王にあこがれる。
 赤の女王はもとは台所女のような身分の女で、先妻が亡くなってから王が娶った。女王は娘を生んだが、出自の低さを気にしてよそにやってしまった。そのあと女王は狂い、消えた娘を捜している。
 女王の娘は樵の家で可愛がられて育つ。樵の妻が死に、その葬式に立ち合った牧師に娘は惚れる。しかしその牧師は狼の姿をした吸血鬼にとつつかれていた。ある晩、娘は牧師に呼び出され、吸血鬼の餌食となる。
 赤の女王は捜し求めていた娘を見つけるが、それは鏡に映った幻で、女王はそれでも喜びのあまり息たえる。七人のドワーフと怪物たちは女王の墓へ向かう。牧師も女王の墓の前に立ち、そのとき狼の悪魔は彼から去っていった。


       ☆☆☆

 以上、駆け足であらすじをざっと書いてみた。もちろん実際の作品を味わっていただくのが一番なので、こんなような雰囲気の作品が収録されていると理解していただければ幸いである。
 色っぽく、どこか背徳の香りがして,神話的原型に満ちている作品ばかりで、英語に堪能ではない筆者ですら引きこんで読ませてしまう名短篇集です。