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                        By 小沢

80年から90年代に刊行された邦訳を原版の刊行年代順に紹介してみます。未訳作品もひとつ入れました。


☆『ドラゴン探索号の冒険』
   The Dragon Hoard (1971)
 社会思想社から九〇年のはじめ訳本が出たこの作は処女作である。ギリシャ神話のアルゴー船の冒険譯を下敷きにしたユーモラスな童話で、のちの「自馬の王子」をほうふつとさせる会話のひねりやとぼけた軽さが随所に見られる。
 誕生日に招かれなくてひがんだ女に呪いをかけられ、一日一時間だけカラスに変わる王子が主役となれば、ついてくる他のメンバーもユニークだ。待ちうける怪物たちもおかしみがあって憎めない。

☆『冬物語』(1975.76)
 表題作と「アヴィリスの妖杯」の二編が収録。「冬物語」は、巫女のオアイーヴ、狼男のグレイ、悪霊ナイワスの三人を軸とした円環の物語。狼男は祭壇にまつられていた聖骨を盗み、巫女は彼を追って村を出る。その追跡行の未、巫女のオアイーヴは時間を遡行し、タイムパラドックスに陥るのだが、ラストの処理は鮮やかである。
 もう一編の「アヴィリスの妖杯」も色彩ゆたかな作で、闇の中で炎上する都のシーンからはじまる。都を攻める軍の中にいたハヴォルはふたリの仲間とともに、焼け落ちようとする城から黄金の杯を持ち出す。杯には呪いがかかっていて、三人は亡霊と悪夢に追い立てられる。指輪ならぬ杯を捨てる旅を余儀なくされる三人の性格設定が魅力的だ。

☆『幻魔の虜囚』(1977)
 邦題の「幻魔」というのはあんまりで、原題はヴォルクハヴァール、ヒロインと対決する魔術師の名である。タイトル通り、ヒロインよりも敵方の魔術師の方が何倍も印象に残る。
 奴隷娘のシャイナは、村を訪れた奇術団の美男役者に恋する(総じてリーの描く女性たちは面くいである)。奇術団は魔術師ヴォルクハヴァールの支配下にあり、シャイナは恋する相手を解放するために魔法を習得しようとする。
 一方では敵方であるはずの魔術師の生い立ちが、シャイナよりもはるかに多くのページを費やして描かれている。忌み嫌われた醜い孤児が、黒い神を呼び出して村に君臨するくだりや、捕らえられて何十年も牢に閉じこめられるくだりは鬼気迫るものがある。
 首を切られたシャイナをよみがえらせるために師匠の魔女が用いた詭弁じみた魔術や、ありふれたハッピーエンドではない皮肉な終わり方などさまざまな視点から読みこめる作だ。

☆『月と太陽の魔術師』(1977
 記念すべき邦訳第一弾の作品。逃亡奴隷のデクテオンは、ザイスタアという魔術師によって女性上位の別世界に送りこまれる。似通って異なるその別世界にはもとの世界とそれぞれ対応する人間が生きていて、ザイスタアとデクテオンはそっくりだった。
 月の象徴たる女王が支配するその世界では、誇り高くたくましいのは女で、男たちは逆らうことすら許されてなかった。ザイスタアは女王の配偶者の「太陽の子」だった。太陽は老いてはならないという決まりから、五年の任期の後に「太陽の子」は殺され、また別の赤毛の美少年が選ばれることになっている。その五年の終わりに近づいたザイスタアは死を恐れ、そっくりなデクテオンを、代わりに呼びこんだのである。
 粗筋だけ追っていくとフェミニズムものかと思わせるが、ジュヴナイルで刊行されたせいかそのあたりにはほとんどふれず、きわめて常識的な結末に落ちついてしまう。おもしろくなりそうな素材がいろいろ散らばっているだけに、消化不良の感があり残念だ。

☆『闇の城』(1978)
 闇の中でしか暮らせない少女リルーンと、竪琴ひきの脊年リアのそれぞれの視点から交互に描かれる。
 不気味な黒い城に閉じこめられた少女は、魔法を用いて誰かを呼び寄せようとする。少女は陰気な双子の老婆によって世話をされ、城から一歩も外に出ることは許されない。竪琴ひきのリアは少女に呼び寄せられ、頼みをことわりきれずに彼女を逸れだして逃げることになる。しかし少女は太陽の光を浴びられない身体で、内に闇の生きものを棲まわせていた。
 とくに派手な筋立てでもないが、無邪気なわがまま娘リルーンがかわいい珠玉作。

☆『死霊の都』(1979)
 十七才の少年ショーツは猪狩りの目、兄をさしおいて名誉ある一番槍を勝ち取る。恥をかかされた兄はショーツを恨み、木の上に縛りあげ、夜の森に放っておいた。夜の森は「死の子供たち」の領土であり、ショーツは捕らえられて彼らの盃から酒を飲まされる。
 朝になってもどった彼は「死」に憑かれた者として処刑されそうになる。
 リー作品のジュヴナイルの中でもっともジュヴナイルらしいストレートな冒険物語。その分、あまり作者の持ち味は出ていない。

☆『銀色の恋人』(1981)
 FTではなくSF文庫で出た作品。近未来の半分廃墟になったロンドンのような街が舞台で、精巧なヒューマノイド・ロポットに恋した少女の一人称による手記ふうの体裁をとった作。
 感情過多といえる大甘な出だしにめげず、よくある設定じゃないかという外野の声にも耳を貸さないで、とにかく一読することをおすすめする。すべての人が、とはいわないが、おそらくめったに得られない感動か感銘を味わえるだろう。それはSFとかファンタジィとかのジャンルを越えた普遍的な感動であり、真にすぐれた作はそうした要素を含んでいるものだろう。
「この作品のラストを感傷的だという人とは話をしたくない」という訳者のいささか過激なあとがきにまったくの同憾で、理屈ぬきで感動した作を他に紹介するというのはむずかしいものである。
 少女が家出して貧しい町に住むとき、部屋を飾る描写が泣けるほど好きである。

☆『白馬の王子』(1982)
 耽美で絢爛豪華な、という平たい地球シリーズの作者のイメージをくつがえすユーモア・ファンタジィ。とはいっても『ドラゴン探索号の冒険』という作もあるので、それほど意外でもないだろう。
 王子はあるとき、白馬にまたがっている自分に気づいた。どうして馬に乗っているのか、どこに向かっているのか分からない、と記憶喪失ふうにはじまる。王子は自分が誰だか知るために、真鍮の竜のいる骨の城におもむく。面倒なことや、危険なことは避けたいなあと言いながら。
 王子と口をきく馬との掛けあい漫才で進行する遍歴物語のパロディ。

☆『影に歌えば』(1983
 「ロミオとシュリェット」の異世界版再話というべきぶ厚い作。本家のシェイクスピアとはまったく違った人物像造形が魅力的で、とくにジュリエットの母親が凄まじく圧巻だ。『死の王』のナラセンもそうだったが、こうした母性愛のかけらもない破壊的な女性像はこの作者の得意のするところだろう。

☆『タマスターラー』(1984)
 インドを舞台にした千夜一夜ふう連作短編集。ふたつにわかたれた魂の遍歴を描いた「運命の手」、象牙愛好症という奇妙な性癖をミステリーふうに凝った結成でまとめた「象牙の商人」、映画スターになった貧しい少女の不幸な結末を描いた「輝く星」、未来のインドを舞台にした表題作などが印象に残る。

☆『パラディスの秘録』(1988
 赤黄青の色にちなんだ中編が三編、紫と緑にちなんだ長編が一編から成る連作短編で、パリを思わせるパラディスという欧州の架空の都を舞台としたシリーズ。
 性転換する吸血鬼、疫病で滅んだ都に現れる堕天使、古代エジプトからよみがえる死体使い、女と交わると獣に変身する遺伝病、など少々ホラーがかってはいるが、耽美でゴージャスな筆致は健在。とくに赤色の中編Stained With Crimsonが魅力的で、吸血鬼ものに分類されるのだろうが、同性愛と異性愛と性転換が錯綜する幻想的な物語である。このシリーズは他にも二冊、刊行されている。

☆『A Heroine of the World』(1989)
 たぶん邦訳の後会はなさそうだから、簡単な内容紹介を。
 帝政ロシアを思わせる世界で、戦争孤児となった少女アラディアのたどる波乱万丈の数年間を描いた架空の歴史小説。故郷の町を占領され、みずからすすんで敵方の将校の愛人となったアラディアはわずか十四歳。
 本国にもどる途中で愛人の将校は死に、彼女は将校の領地におもむき、その領土を未亡人として相続する。結局、彼女は、その領地が皇帝の保護を得るための餌にされかけるが、真の人生に自覚め、再会した初恋の相手を追っていく。ハーレクインロマンスかと思うような作である。