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覚え書き

  



雑誌掲載の中編をあわせても3作品しかないですが、いちおう《シティ・セラピスト》というシリーズものです。
数年に一作というペースだったし、発行媒体もマイナーだったから、あまり知られてませんが、あらためて読み返してみるとなかなかいいシリーズです。

第一作の『青薔薇の街』は頸文社の小B6判単行本で1994年に発行されました。第二作の『蒼白なる堕天使の街』はその四年後の1998年に、同じ頸文社の小B6判単行本で出ました。
同じロークとハルが出てくるシリーズの中編『金色のかごの鳥』はその後ぐらいに雑誌掲載されました。
今のところ、その三作だけのシリーズものです。

発行順はこのようになってますが、話の順番としては『蒼白なる堕天使の街』が最初で、ロークがハルという相棒に出会うエピソードを描いてます。彼はこのとき二十代前半のようです。
『青薔薇の街』『金色のかごの鳥』はコンビを組んで何年かたった頃のエピソードです。
一話完結のシリーズものですから、どこから読んでもかまわない作りになってます。

当時のあとがきでは
今回できあがった作品ですが、「近未来耽美ハードボイルド」と勝手にキャッチフレーズをつけてみました。都市の病を治療するセラピストとその美しい助手がコンビで活躍する《シティ・セラピスト》というシリーズの中の作です。
 ふつうの男女間では表現できない一途な切ない想いを描くというのが、私の考える「耽美小説」のエッセンスですので、この作品もそのあたりを追求してみました。せっかく男と男(この作の場合は男と男性型XXXXですけど)の間柄を描くならば、男女間に置き換え可能な関係であってはつまらないとも考えておりますので、そこにも留意してみました。
 まだまだ書きたりないところもあり、発展途上の物語ではありますが、ご愛読していただければ幸せです。T・リーの『銀色の恋人』とアシモフの一連の作品への熱烈なオマージュでもありますので、作中の記述にああとうなずいてくれる方がいると嬉しいです

と書かれてます。

まあそんな狙いもあったのかとなつかしく思い出しますが、今回、PDFファイル化するために読み返すのは十年ぶりで、すっかり話の中身も忘れていました。
とくに『蒼白なる堕天使の街』は本が発行されてから一度も読み返したことがなく、細かな展開どころか結末まで覚えてませんでした。そのおかげで初めて読んだ人様の本のように、読者の立場で雑念なく読むことができ、すごく面白かった。
自作を「すごく面白い」と書いていると自画自賛の馬鹿者のようですが、自分の好みで書いた作品を初めての立場で読むわけですから、それなりの出来であれば面白く感じるのはあたりまえという理屈です。
そんな理屈をさしひいても、『蒼白なる堕天使の街』はマイナーなのがもったいない良作ではないかと、ちょっとだけ思います。こういうの読みたいけど、あまり他ではないよねという贔屓目も入っているかな。
シェイクスピアのソネットの詩句をモチーフに組み立てているのですけど、一筋縄でいかずひねって反転しているところが驚きでした(展開に驚くほど記憶になかったわけです)。

『青薔薇の街』の方はシリーズ第一作ということもあり手さぐり状態だったのか、後半が駆け足で残念な印象でした。こちらは第二作を書くときに読み返したので、粗筋をわずかに記憶していたかな。
以前にある後輩作家さんから、「『青薔薇の街』を読み、こういうのを書きたいと思って新人賞に応募して入選しました」という打ち明け話を聞かされたことがあります。
何かの刺激になったなら嬉しいですが、こういったタイプの作品はあまり書く人がいないのかなとも感じました。久しぶりに読み返してみて、私自身も「こういうの読みたいけどなかなか見つからないな」とあらためて思いましたので。

ないなら自分で書けと言われそうですが、自作では完全に話を忘れてないと楽しめないので、誰か書いてくれないかな。