本文へジャンプ
覚え書き

   ★単行本のあとがきを元にして再構成し、加筆しました。
    Kindle版で発行することになりました。



 この不思議な物語にジャンルをつくるとしたら、近未来野球ファンタジーとなるでしょうか。

 作中では明らかにしてませんが、舞台はいちおう未来の日本です。今ある馴染み深い街、東京とか大阪とかの地名はなくなっていて、ブルーシティ、イエローシティ、マゼンタシティというように、色の名前で呼ばれている都市が各地にあるだけです。
 海の向こうは汚染されていて、他の国や街は存在しているのですが、事実上の鎖国状態となってます。

 各地に点々としている色の名前のついた都市を束ねているのが、中央政府と呼ばれている政府です。物語の発端に登場するブルーシティにはまだ自由な雰囲気があるのですが、他の街に住む人々はこの中央政府の圧制に耐えかねてます。
 上から押さえつけられているような鬱々とした日々を送っている市民たちが何よりも楽しみにしているのが、各都市を本拠地としたチームどうしが戦いあうベースボールの試合なんです。
 この物語の主役となっているのはブルーシティに本拠地を置くウルトラマリンズのスーパールーキー。スタジアムで歓声に包まれる反面で、反政府運動に手を貸しているという人物です。

 なんだかよくわからない説明となってしまいましたが、こんなふうな摩訶不思議なお話だと思って読んでくださると、いっそうファンタジックな気分にひたれるかと思います。
 どこか変で説明不能だけど、ほんわかと浮き浮きとした気分になれる未来の寓話――そんな物語をめざして書いてみました。

 この物語の冒頭を思いついたのは藍少年と似たような状況で、台風一過のさわやかな日、浜風の吹いてくる横浜スタジアムの内野席で、ぼうっと試合前の練習風景をながめていたときでした。まだ兼業で、別に仕事を持っていたときです。
 その年、私はある野球選手の熱烈なファンで、時間が許す限り、東京近郊で行われるゲームを追っかけてました。スタジアムに来た藍君のときめきや感動は、ほとんどそのときの私のものです。

 当時は多忙のせいもあって、『ブルー・スタジアム』は冒頭シーンだけで中断してました。色をモチーフにした連作というのはいずれ書いてみたいと思いつつ、例のごとく時が流れ、新雑誌から何か書いてみないかと依頼を受けました。
 あまり雑誌に書いた経験はなく、どんな作品にしようかとさんざん悩んだ末、この『ブルー・スタジアム』を引っ張りだし、完成させることにしました。枚数制限もなく好きに書かせてもらった上、綺麗なカラーページもついて巻頭掲載で驚いた記憶があります。

 もともとは最初の『ブルー・スタジアム』だけで完結した話だったのですが、その後も順調に物語の神様が降臨して、すらすらと続きができました。
 特に『イエロー・エッグ・ムーン』で蘇芳というキャラが出てきてからは、彼が物語を引きまわすような感じで、本来のベースボールの話から大きくずれてしまうことになりました。
 青の街ブルーシティから、黄色の街イエローシティ、赤の街であるマゼンタ・シティと舞台を移し、物語は色を中心にして展開します。ネーミングも色に関する名で、妙なところに凝って時間をかけました。

 もうひとつ余談ですが、打ちあわせのとき、「このキャラは属性的に攻めですか、受けですか」という質問を受け、新鮮な衝撃を受けました。そういうふうに設定段階で考えたことがなかったので、あいまいな返答しかできませんでした。
 ボーイズラブ系だったら、まず最初の段階で決める設定なんでしょうね。今なら驚きませんが、具体的なシーンがないかぎり、受け攻めは作者にもよくわからないので答えられないですね。