覚え書き その1


 ハードカバー『破壊王の剣』別冊付録に載せたシリーズに関してのエッセイを一部再録し、項目を加えて大幅に加筆訂正し、お届けします。 
Kindle版発行に際し、改訂しました(2014.1.22)                                  


Millennium Larentia《ラレンティアシリーズ》本編5部作『黄金の守護者』、『赤い月の神殿』、『薄闇の女王』、『蒼き炎の名』、『覇者の王国』と外伝『破壊王の剣』の元の版は最初、1991年に角川スニーカー文庫から発行されました。
その後も加筆修正を加え、私家本のハードカバーやアンソロジーなどにまとめられ、今回Kindleで発売することになりました。
執筆当時や文庫出版後の反響などをまじえた覚え書きです。


★言霊について★


いろいろな作品を書いてきて、私は「言霊」というものはあるんじゃないかと思います。頭で考えて書いた作品もありますが、ほんの数作ですが「これは私が書いたのではなく、言霊が背後から書かせたのだ」 と思えるものがあります。
Millennium Larentiaの本編(と便宜上呼んでいるのは角川文庫版『黄金の守護者』『赤い月の神殿』『薄闇の女王』『蒼き炎の名』『覇者の王国』の五部作のことです)と『破壊王の剣』『真紅の封印』(こちらは外伝と呼んでます)はまさにそれで、とにかく天から降ってきた物語と情景を文章にしたという感覚です。

やや誤解をまねく表現ですが、これを書いていたときは「なにか憑いていた」ような気がします。それを「言霊」という表現であらわしてみたわけです。私はただ暴れ馬のようなそれに手綱をつけて、いちおうの作品の形にするのがせいいっぱいだったと。
とくに本編はひじょうに密度の濃い話ですが、これを実際に書いていたのは半年たらずの期間です。全部で二千枚以上(400字詰め換算)はゆうにあるのですが、短期間で駆けぬけるように書いた記憶があります。
外伝を書いていたときはまだ専業ではなく他に仕事を持っていたけど、それでもひと月はかかっていません。通勤の電車の中でも、次の情景が浮かんでは消えるという感覚を味わってました。途中でさぼって喫茶店に入り、圧倒的に迫ってくる情景をメモしてました。
ときどき、この文を書いていたときはこんな空気が流れていた、この場面が浮かんだときはここだったと、なつかしく回想することがあります。言霊さまがいらしてのっているときは、作品世界の空気の色あいまで感じとれて、キャラそれぞれの声まで聞こえてくるようなときがあります。そういうときの記憶は鮮明ですね。

この言霊というのは、いらっしゃるのは大歓迎なのですが、扱いがなかなかやっかいです。突然、降りてきて、作者の都合など関係なく、突風のようにふりまわすのですから。なにかに「ハマっている」という状態に近いのでしょうか。短くて熱烈な恋のごとく、「書け書け、これを書けーー」と背後から脅します。
それはそれでありがたいことですが、問題は締め切りの都合とか、仕事の順番とかもろもろの拘束があるということですね。どうしても別のものを仕上げなくてはいけないときは、言霊さまとの戦いになり、結果的にはつわものどもが夢のあとのごとく、仕事は進まない、言霊さまは去ってしまわれるというはめになったりします。


★舞台設定について★

とはいっても、言霊様をお迎えするには道筋と手綱を用意しなくては、作品の形にはなりません。前準備として、基本的な世界設定やキャラ設定が必要になります。
Tales From Third Moonシリーズでは、放浪者ふたりのイメージだけが先にあり、あとで世界設定やキャラ設定を考えたと書きましたが、Millennium Larentiaに関しては世界設定が先にありました。いちおう、本格的なエピック・ファンタジー的世界をやってみたいと構成から始めました。

イメージの原型となったのは、学生時代に興味をもって調べていたブロンテ姉妹とその兄のゴンダル・アンク゜リア年代記だったように記憶してます。その年代記自体は残っていず、彼らがそれぞれ書いた詩から全体像を類推するしかないのが神秘的で、強烈にひきつけられたのです。研究者たちが少ない資料から再構築していく課程がおもしろく、自分でも補完してこんなふうじゃないかと想像してました。
「全島の女王が支配する大帝国」というイメージの元はその課程から生まれました。他にもいろいろ影響が残っているところがあります。

世界構築には地図と年表が不可欠ですから、地図作りも最初にやりました。白地図帳を切り貼りして、それらしい大陸の形をつくり、各国の設定をしていきました。
ネーミングにはいつも苦労しますが、この世界には「名前の掟」というものを設定し、それに従って命名していきました。七つの国を設定し、最初の母音で生まれた国を、子音で身分をしめすという方法です。
七という数字が重要な意味をもつという設定にしたので、主人公は七人兄弟の末っ子、対立する魔族の一族も七人兄弟(実際は違いますが)ということになり、ネーミングがたいへんでした。途中でこんな大勢の兄弟を出さなきゃよかったと後悔しましたが、こだわりついでに全員の設定をかぶらないようにやりました。

後に魔族兄弟の誕生とその後を描いた『未踏の道』を書いてみると、この初期設定はよく出来ていたと自分ながら感心しました。キャラの設定も当時浮かんだままだし、それぞれ個性があります。七国あって、その国にひとりずつ兄弟がいるというのも世界設定的に楽しい。 


★第六巻について★

以下は99年頃、「幻の第六巻について」というタイトルで書いた文です。  
いちおう本編は第五巻の『覇者の王国』で終わっているのですが、実はもう少し先の物語があります。当初の構想では第六巻があるはずでした。けれど一巻だけで終わるとも思えなかったのでいったん終わりとしたのですね。「第一部完」のような感覚です。
それで問題の「第二部」ですが、これはいつか書くつもりでいます。話はだいたい出来ております。ラストシーンもはっきり見えている。相対する神《ルー》との真の意味の決着はつくはずですし、女王さまの運命と位置づけもはっきりするでしょう。
第二部というとたいそうなものに聞こえますが、少しあのつづきがあるんだよとそんなふうに受けとめてくださるとうれしいです。いちおうミカルちゃんが立派な女王さまになるまで描きたい気持ちはあるのですが


今、読み返してみると感慨深いし、幻で終わるかと思えた第六巻(『神々の果ての扉』というタイトルになりました)が書けてうれしかった。公約違反にはならずにすみましたね。まさに「老後の楽しみ」的にその後の話も書きつづけているし、年をとるのもそんなに悪いものじゃないと思えてきます。

作品の年代の流れとしては990年の話が本編『黄金の守護者』『赤い月の神殿』『薄闇の女王』『蒼き炎の名』『覇者の王国』で、その3年後の993年の話が「幻の第六巻」的位置づけの『神々の果ての扉』です。
『神々の果ての扉』《Chronicle of GoldenAge》のプレストーリーであり、執筆時期も離れてますから、シリーズわけとしては《Chronicle of GoldenAge》の第一巻めとしました。
《Chronicle of GoldenAge》は1000年代から1200年代の王国の200年近くにわたる5世代の年代記ですが、『神々の果ての扉』を含めたので正確には993年からの話になります。

『未踏の道』は本編前史で、932年から990年までの魔族の首領一代記です。前に文庫の巻末に載せた「サイファのサイラスの手記」とかぶる部分もあるのですが、細部にかなり差違があります。それはサイラスの視点から残した記録と、キリヤ側から見た話との違いです。部分的には正反対の見方をしているところがあります。