作者インタビュー その1


ペーパーバック版『神々の果ての扉』上巻に収録した作者特別インタビューを一部紹介します。
本編のネタバレが多少ありますので、ご注意ください。(2023.10)                               

書こうと思ったきっかけはなんですか、影響を受けた作品は?
 
Millennium Larentiaに関してはいちおう本格的なエピック・ファンタジー的世界をやってみたいと世界設定から始めました。
 イメージの原型となったのは、学生時代に興味をもって調べていたブロンテ姉妹とその兄のゴンダル・アングリア年代記だったように記憶してます。
 本編五部作冒頭の展開「眠ってる美女を見つけたら、とんでもない厄介ごとに巻き込まれた」の部分は某アニメの影響があったのかも。よく覚えてません。


そのゴンダル・アングリア年代記は読めるんですか?
 いえ、年代記自体は残っていず、三人の書簡や、それぞれ書いた詩から断片的にわかるのみです。研究者たちが少ない資料から再構築しておおまかな構想はわかってるんですけど、自分でもこんなふうじゃないかと想像してました。
「全島の女王が支配する大帝国」というイメージの元はその課程から生まれました。他にもいろいろ影響が残っているところがあります。
 詩のタイトルやフレーズから連想した設定もあって、続編的位置づけのChronicle of GoldenAgeの学歓舎や、真昼と真夜中の出会いとかもそこから来ていたような。


シリーズの中で一番気に入っている作品はなんですか?
 
ひとつづきの作品が多いから、タイトルをあげるのはむずかしいので好きなシーンをあげてみます。
 この『神々の果ての扉』では下巻の、ふたりの神の継承者が手をとりあって旅するシーンがすごく好きだし、うまく描けたなと思ってます。
 あと初代女王さまの登場シーンはだいたい好きですね。なんか周囲がひれ伏して、ひざまずきたくなる感じが出ている。
 《闇の王子》さんもキャラ的に動かしやすくて、『破壊王の剣』の後半展開は気に入ってます。
 最近、《闇の王子》さんの復活作品『湖上の黄金』を書いたら、久々の登場なのに生き生きと動いてくれました。貴重なキャラです。
 剣の対決シーンも好きで、本編五部作の四巻『蒼き炎の名』でシーク一族に出会い、焚火の前で立ちあいする場面がお気に入り。

プロットや下書きは作っていますか?
 世界設定や各国のなりたち、人物設定はかなり詳細にやったのですが、あとは言霊さまの暴れるままに手綱をとりながら仕上げた感じです。
 とくに本編二巻の終わりに初代女王さまが登場してからは、そのまま展開していったので、あまり自分で考えて構成したという記憶がないです。


シリーズで一番最初に書いたのは?
 本編五部作の原型が最初ですね。まだ学生のときだった。
 次に外伝『破壊王の剣』かな。派手な剣豪対決がやりたかった。
 それから数年たって『真紅の後継者』の原型や『夜に旅する者』。すごくスランプの時期に書いてた思い出があります。
 長期スランプを脱してシリーズ再開したのが『白い月の森』、それではずみをつけて長年の公約だった実質的第六部の本作『神々の果ての扉』にとりかかりました。
 すごく長い期間に少しずつ書いてるシリーズなので、初期の頃と今では文体も変わってきてます。
 Chronicle of GoldenAgeについてはまた別の機会に。


《ルー》や《ラー》というのは、どこから出てきたんてすか?
 もともと本格的なエピック・ファンタジーをやりたいと思ったきっかけが、宗教的ではなく神のような存在を作中で描きたいという願望でした。
 文化人類学の講義をとっていたとき一神教や多神教はよくあるんだけど、二神教ってあまりないなと思い、こういう設定にしました。
 昔は真面目によく勉強していて、文化人類学のときにまとめていた詳細なノートが今でも残っているのですけど、たぶんそのあたりから発想したんじゃないかと思います。


一番好きな登場人物は? 
 
初代女王さまかな。M男近衛隊長の気持ちがちょっとわかる。

商業出版で出したとき、女王さまは不評だったとか?
 そうなんですよ。脅迫状みたいなものも届きました。
 ティアス君をいじめるなとか。そんなにいじめてないですよね。
 男どうしの繋がりが好きな読者が多くて、他の作品もそれっぽいものがメインだったから、このシリーズは異端視されたというか、なんでこんなのを書くのかみたいに言われたこともありました。
 この作品の設定では神の代理戦争なので、かならずしも男女の組み合わせでなくてもいいんですけど。
 男どうしの愛憎にしたらよろこんでくれたのかなと思いますが、まあやはり元々全島の女王設定があったから男では合わない。


登場人物にモデルはいますか?
 容貌を考えるとき、イメージモデルにした俳優、ミュージシャンなどはいます。
 あくまでも外見だけのイメージです。
 キャラ設定としては、メインに出てくるのが人間じゃない人ばかりなので、具体的なモデルはいない。
 神に近い人の意識ってどんな精神構造だろうと考えながら、設定していたように記憶してます。
 本編五巻の終わり部分で、神の視点で眺めるシーンがあって、そこに集約されてます。このあたりの描写もすごく書きたかったシーンで、なんとか形になって書けたときは嬉しかった。


作品の中で自分に一番似ていると思う人は誰ですか?
 考え方に共感できるのはニアル君。のんびりゆったり、せきたてられず暮らしたいという気持ちがすごくよくわかる。

カリュドン王家の七人兄弟が出てきていろいろ活躍しますが、第六王子は?
 いつか書こうと思っていて、書く機会がなかったのですが、十歳で夭折したとだけ書いて放置してあります。
 単に若死にしたわけでなく、本編にまつわるエピソードとしてあったんです。
 七番めの子に力が宿るという予言があって、王女がひとりいたから、その第六王子が七番めの子だと誤解され、身代わりに暗殺されてしまったという設定でした。
 問題のある兄弟の中で、すごく優秀でいい子だったけど、本編に取り入れられず家系図に名前だけ残ってしまった。
 Chronicle of GoldenAgeの第二世代編八巻『影の兵の光輝』に収録した番外編「河の女神語り」でついに第六王子にも少しふれられました。この河の女神とは『未踏の道』に登場した人が数奇な運命をへて、河の女神として崇められるようになった話です。


女王さま、その七人兄弟のうち三人も……。
 
いや、それは(笑)……。ひどいと思うけど、比較して味見するところ、好きなシーンだったりする。
 文庫で出したときは年少読者を考慮してあいまいにしたけど、後に少し書き足してます。
 あと本編三巻『薄闇の女王』の○入りシーンも、すごく重要な場面をkindle版で書き足してます。さけて通れないところで。 露骨にならず色っぽいシーンはむずかしい。

            インタビュアー・沙羅